| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-B-087  (Poster presentation)

非破壊的な盗蜜が適法訪花者の行動と植物の繁殖に及ぼす影響:サワギキョウでの盗蜜排除との比較から

*松原豊, 酒井聡樹(東北大学 生命科学)

 植物の花蜜は訪花者誘引に重要な役割を果たすが、誘引されるのは花粉の送粉を担う適法訪花者だけでなく、蜜のみを採取する盗蜜者のような訪花者も含まれる。これまで植物と適法訪花者の関係については多く研究されてきたが、盗蜜者は余り注目されてこなかった。また、盗蜜の研究では、花被に穴を空けるなどの破壊行動による影響が含まれていたり、開花中の訪花行動や種子生産の結果など、断片的なものが多かった。本来、植物の受粉を担う適法訪花者の訪花行動は盗蜜者など他の訪花者との餌獲得競争の結果で行われると考えられる。このため、盗蜜が適法訪花者による植物の送粉や繁殖成功に重要な影響を及ぼしている可能性がある。
 本研究では、盗蜜者を含めた訪花者の行動が、植物の蜜生産や種子生産といった繁殖戦略にどのような影響を及ぼしているのか明らかにする。今回、オオマルハナバチやミツバチによる花弁の隙間を利用する非破壊的な盗蜜の影響について、対象植物の雄性先熟のサワギキョウと適法訪花者トラマルハナバチの行動について検証した。植物個体で、開花中から種子生産まで追跡し、自然条件下の盗蜜の影響も検証のための人為的な盗蜜排除処理や、盗蜜が起きた個体への盗蜜者や適法訪花者への影響を検証するための人工盗蜜処理を行った。
 その結果、盗蜜排除処理では、適法訪花者の訪花頻度が増加する一方、花序内の連続訪花数やそれに伴う隣花受粉のリスクは減少した。しかし、植物の種子生産や蜜生産は変化せず、同時開花数が減少した。一方人工盗蜜処理では、適法訪花者も盗蜜者も滞在時間が減少し、植物の同時開花数が増加し種子数が減少した。
 以上から、非破壊的な盗蜜によって、花序での適法訪花者の連続訪花や隣花受粉の増加が引き起こされ、植物は同時開花数を増加させることで花序内で異性の花間の訪花が起こりにくい状態を作る戦略を取るようになったと考えられる。


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