| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-B-088  (Poster presentation)

ゴマシジミとナガボノシロワレモコウの共生関係

*内田葉子(北海道大学)

 植物は様々な草食動物からの捕食を受けるが、その捕食に対して防衛戦略を持つものが存在する。防衛戦略には、捕食を回避する「防御機構」と、捕食による成長や種子生産の低下を補う「補償反応」が知られている。本研究の対象種であるナガボノシロワレモコウ(以下、ナガボ)は複数の花穂を付ける多年生草本で、チョウの一種であるゴマシジミはナガボの花穂にのみ産卵し、孵化した幼虫がナガボの子房や胚珠を捕食するスペシャリストである。この捕食はナガボの種子生産に負の影響を及ぼすと考えられるが、ゴマシジミの具体的な捕食の程度や捕食によるナガボの種子生産への影響、ひいては捕食に対する補償の有無などは研究されていない。本研究では、ナガボとゴマシジミの種間相互関係の維持機構の解明を目的として、①ゴマシジミのナガボへの産卵状況、②ゴマシジミの幼虫による補食の実態、③捕食によるナガボの種子(果実)の生産量の変化を、野外観察および操作実験を通して調査を行った。
 調査は北海道北広島市に自生するナガボ集団で行った。ゴマシジミの産卵行動を観察した結果、ゴマシジミは花穂の中でも茎頂に付ける花穂に最も産卵する傾向があり、さらにゴマシジミは、ナガボの個体当たりで1個の卵を産む傾向が認められた。また、果実の成熟後に花穂の捕食率を計測したところ、捕食を受けた花穂の約半数は果実の90%以上が捕食されていた。しかし、捕食されたナガボ個体と捕食されていない個体に関して、個体当たりの果実の生産量で比較してみると、両者の果実の生産量はほぼ同じであった。これは、個体レベルで捕食を受けた花穂の種子生産を、捕食を受けていない花穂で補っていることを示唆する。以上の結果から、ゴマシジミの産卵傾向と捕食に対する補償反応は、ナガボとゴマシジミの種間関係を維持する機構の1つであると考えられる。


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