| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-B-093 (Poster presentation)
ニホンジカは個体数の急増に伴って、生息域を高山帯にまで拡大させている。世界遺産に登録された富士山亜高山帯の天然林においてもシカが侵出し、樹皮剥皮が多数確認されるようになった。シカによる樹皮剥皮は森林構造の不可逆的な変化などをもたらす可能性があり、剥皮害の防除が急務とされている。効率的な防除には剥皮発生に影響を与える環境要因を解明することが有効であるが、高標高域における知見が不足している。そこで本研究では、富士山亜高山帯の北西斜面で毎木調査及び剥皮調査を行い、剥皮発生状況の定量的な評価及び剥皮発生に影響を及ぼす環境要因を検討した。
遊歩道である御中道を中心に長さ5 km×0.5 kmの範囲を調査範囲に設定し、斜面方位に沿って5エリアに区分けした。各エリアに10地点の調査地をランダムに設置し、出現樹木の樹種、胸高直径、剥皮の有無を計測した。剥皮発生の要因解析にはGLMを用いた。応答変数は剥皮本数、説明変数には毎木調査で得られた環境データを用いた。
剥皮はシラビソ、ナナカマドで集中的に発生しており、90%以上が胸高直径10㎝以下の小径木に発生していた。また剥皮は斜面方位によって発生率が異なり、特に西斜面で多く発生していた。剥皮発生に影響を与える要因として、「ナナカマド、コメツガ、ダケカンバの立木本数」、「方位度」が選択された。前者はシカの嗜好性及び不嗜好性樹種を反映した要因であり、後者は斜面方位による低標高域のシカ密度や利用頻度の違いを反映した要因であると考えられた。この結果から、高山帯においては、森林構造だけではなく、低標高域からのアクセスの良さといった地理的要因が剥皮の発生に影響を与えている可能性が考えられた。