| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-E-163 (Poster presentation)
シカは防御形質が少ない植物を選好することが実験によって確認されている。野外でもシカは防御形質を有する植物を避けながら採食する可能性がある。しかし、防御形質の少ない植物を野外でも選好しているかは確かめられていない。
本研究では、植物の防御形質のトゲとフェノール類が野外におけるヤクシカの選好性に与える効果について検証した。フェノール類に関しては、若葉と成葉を区別して評価した。また、防御物質以外に選好性に影響を与える可能性のある要因として、植物種の出現頻度(出現調査区数/全調査区数)を調査し、その効果を検証した。
選好性の指標として、植生、食痕調査の結果から各植物種の「シカによる採食の受けやすさ」(食痕が見られた調査区数/全調査区数)を求めた。また、駆除されたシカの胃内容物についての先行研究の結果と本研究の植生調査の結果から、採食の受けやすさと植物の出現頻度との相関を調べた。加えて、17種について若葉と成葉のフェノール類の含有量を定量した。
その結果、採食の受けやすさと植物の出現頻度の間には有意な正の相関があった。成葉とトゲを持つ種の若葉に関して、トゲとフェノール量はシカによる採食の受けやすさに有意な影響を示さなかった。トゲのない種の若葉に関しては、フェノール類の含有量が多いほどシカによる採食を受けやすいことが分かった。若葉は成葉と比べ有意にフェノール類含有量が多かった。
本研究から、トゲはヤクシカへの防御形質として有意な効果を持っていないことが分かった。フェノール類については、ヤクシカはむしろ含有量の多い植物を選好していた。この傾向は、(1)フェノール類とフェノール類以外の防御物質量にトレードオフがあり、ヤクシカは後者が少ない植物を選好している、(2)ヤクシカはフェノール類を解毒することに適応している、という可能性を示唆する。