| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-E-168  (Poster presentation)

野生絶滅種コシガヤホシクサにおける保全管理方法の確立に向けた繁殖生態学的研究

*堀内勇寿(筑波大学・生命環境), 田中法生(国立科博・筑波実験植物園), 永田翔(NPO法人・アクアキャンプ), 上條隆志(筑波大学・生命環境), 鈴木康平(名古屋大・院・環境)

 生息域外保全は生息域内保全と相補的に種の絶滅に対する安全網を供する. 一方,生息域外保全での不適な管理方法は保全集団の価値低下を招く懸念材料とされ,特に繁殖を介した影響が大きいと考えられている. 本研究対象種であるコシガヤホシクサでは1995年の野生絶滅以降,域外保全では繁殖生態は考慮されてこなかった. そこで本研究は本種の繁殖特性として(ⅰ)花序特性,(ⅱ)送粉特性(ⅲ)交配方法(自家・他家)による適応度を栽培実験により明らかにし,適正な保全管理方法を検討した.

 (ⅰ)では6花序(/株)を対象に花数と花粉数の計測,(ⅱ)では個体密度区(高:195/㎡,低:30/㎡)による送粉者の合計訪花回数と柱頭への付着花粉粒数の計測,(ⅲ)では交配方法ごとの種子重量・生存・成長量の計測を行った。

 花序特性として性比を含めたPO比での評価より,一花序目は雌的(135:1±71:1),2花序目以降でより雄的(193:1±101:1)に機能し,機能的な性は花序順位により異なると考えられた. 送粉特性として個体密度が低い場合より高い場合で送粉者の花序への合計訪花回数が柱頭への付着花粉粒数を増加させ,高密度条件は花粉輸送促進に重要だった. 交配方法による適応度では他家交配は種子重量および,湿地環境に比較し水中環境での繁殖段階までの生存に対して正の効果を与えることが確認された.

 長期的な生息域外保全による遺伝的多様性の消失が想定される本種でも他家交配の重要性が断片的に明示され,保全管理には個体密度を含めた送粉環境の整備が重要と考えられる. 高個体密度の重要性には花粉輸送促進および密度効果による花序サイズ制限を介した自家交配抑制の可能性の2点が挙げられる. 一方,花序特性や異なる親に由来する種子の確保(遺伝的多様性)の反映には複数の花序を残す必要がある. 故に,株内の同時開花数(花序数)の減少と面積当たりの同時開花数(花序数)の増加が保全管理には重要と考えられる.


日本生態学会