| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-E-175 (Poster presentation)
近代以降、湿原や草原は急速に開発され、多くの湿・草原性鳥類が減少している。農地景観に残存する湿原や草原がこれら鳥類の重要な生息地となっているが、農地や牧草地、及び耕作放棄地もまた、生息地として機能することが知られている。様々な土地利用が存在する農地景観で湿・草原性鳥類を保全するためには、各土地利用が生息地としてどの程度機能するかについて比較する必要がある。しかし、そうした試みは世界的に殆どなされていない。
これまで、生物の生息地としての評価は、種数や個体数といった指標を用いて行われてきた。しかし、多くの生物が生息する生息地であっても、人為攪乱や農地管理の集約化が、生物の繁殖成績や餌資源量を低下させる可能性が指摘されている。つまり、種数や個体数だけでは生息地の評価は不十分かもしれない。そこで本研究では、種数と個体数だけでなく、繁殖成績、餌資源量、初渡来日も指標として、農地景観の主要土地利用(湿原・耕作放棄地・牧草地・畑・太陽光発電所)において、鳥類の生息地としての価値を比較した。調査は北海道の勇払原野で、2016年の4-8月に実施した。
種数は耕作放棄地で多かった。湿原及び耕作放棄地の個体数は、他の土地利用よりも多かった。ノビタキSaxicola torquatusの繁殖成績は、畑で最も低かった。初渡来日は多くの種で有意差があった。餌資源量は土地利用間に有意差がなかった。耕作放棄地では種数が最も多く、個体数は湿原に匹敵した。これは、湿性草本で営巣する種に加え、木本上で営巣する種が繁殖していたためだった。耕作放棄地は世界的に増加しているが、湿・草原性鳥類の生息地としての重要性が示されたといえる。畑や牧草地、太陽光発電所においても個体数は少ないが、複数種の湿・草原性鳥類が繁殖していた。本研究の結果は農地景観において、残存する湿原を保全し、特に耕作放棄地に価値を見出すことで、湿・草原性の鳥類を保全できることを示している。