| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-E-181 (Poster presentation)
イヌワシ(Aquila chrysaetos)は北半球に広く分布している猛禽類であり、6亜種が存在する。日本に生息するニホンイヌワシ(A. c. japonica)は約500羽と推定され、絶滅危惧IB類であり、繁殖成功率および個体数が減少し続けている。一方、スコットランドにはイヌワシ(A. c. chrysaetos)が1000羽以上生息している。19世紀に個体数が激減したが、1960年代には300つがい、90年代には約500つがいに回復した。ニホンイヌワシの適切な保全方法を検討するため、本研究では両地域のイヌワシの遺伝的多様性を比較した。
ニホンイヌワシ39個体(岩手県由来36、青森県由来1、栃木県由来2)およびスコットランドイヌワシ32個体の試料を用いた。新規開発したマイクロサテライトマーカー16種を用いて型判定を行い、対立遺伝子数(Na)、Allelic richness(Ar)、ヘテロ接合度の観察値と期待値(HoとHe)、近交係数(F)を解析した。
解析の結果、Na、Ar 、Ho、He、F はそれぞれニホンイヌワシが4.4、3.39、0.519、0.560、0.08、スコットランドイヌワシが4.5、3.52、0.497、0.544、0.13だった。ニホンイヌワシに比べ、スコットランドイヌワシはヘテロ接合度が低く、近交係数が高かった。これは過去のボトルネックの影響によると考えられる。ニホンイヌワシの個体数は60年代のスコットランドイヌワシよりも少ないにもかかわらず、現在のスコットランドイヌワシよりも高い多様性を維持していると推定される。すなわち、個体数を維持できれば、将来個体数が回復した際には、スコットランドイヌワシよりも高い遺伝伝的多様性を保てると予測される。今後は、次世代シーケンスにより得られた大量のSNPデータを用いて、より詳細に遺伝的多様性の比較を行う予定である。