| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-F-185 (Poster presentation)
鱗翅目・膜翅目幼虫はシジュウカラ科鳥類(カラ類)の育雛餌として選好される餌資源であり,環境中におけるその豊富さや分布は,カラ類の繁殖成功に関わる主要因の一つである。日本の森林面積の約4割を占める針葉樹人工林において,鱗翅目・膜翅目幼虫は大面積を占めるスギやヒノキの樹上では乏しく,尾根や沢などに点在する小面積の広葉樹林内(広葉樹パッチ)に偏在している。そのため,人工林におけるカラ類の繁殖生態は,広葉樹パッチの分布に強く影響されていることが予想される。実際に,スギ人工林内に巣箱を設置した調査では,ヤマガラは営巣場所としてとくに広葉樹パッチ付近を選好した(Kondo et al. 2017)。今回は,人工林におけるカラ類の給餌行動の環境への順応性を明らかにするために,カラ類の給餌行動と巣周辺の広葉樹パッチの分布との関係を調べた。
調査は,愛知県北東部にある名古屋大学稲武フィールドの40–60年生のスギ人工林で行った。林内には,2012–16年にかけて約60個の巣箱を20–60 m間隔で列状に設置している。本調査地(巣箱の半径50 m以内)では,針葉樹が約90%,広葉樹が約10%の面積を占めている。期間中,林内では,ヒガラPeriparus ater,シジュウカラParus minor,ヤマガラPoecile variusの3種が営巣した。給餌が活発な雛10–15日齢時に,巣箱出入口をデジタルビデオカメラで約8時間連続撮影し,餌の種類(鱗翅目・膜翅目幼虫,直翅目昆虫,クモ類,その他),餌の体長,給餌回数を記録した。その結果,ヒガラとヤマガラでは巣周辺の広葉樹パッチまでの距離が遠くなるにつれて,鱗翅目・膜翅目幼虫から直翅目昆虫へと餌利用を変化し,その変化はヒガラで大きかった。本発表では,餌動物の体長と給餌頻度を含めて,人工林におけるカラ類の給餌行動の順応性について報告する。