| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-F-189 (Poster presentation)
アリ類においては、交尾を終えた創設女王が単独で営巣し、巣室にこもって最初の仔を育てる、蟄居型コロニー創設という様式を採用する種が優占的である。このような種の女王は、創設期間のあいだ巣外で採餌しないため、捕食者や病原体による死亡リスクを低減できる一方、体内に蓄えた栄養しか育仔に利用できない。したがって、女王が多数のワーカーを生産するためには、できるだけ多くの栄養資源を体内に蓄える必要があると考えられてきた。創設女王が育仔中に消費する栄養資源として、脂質やタンパク質が知られているが、それらが女王自身の活動とワーカーの生産にどのように配分されるのかという知見は乏しい。そこで、創設女王による育仔中の栄養配分を明らかにするため、蟄居型コロニー創設を行なうクロオオアリを用いて、女王による育仔の経過と、脂質量とタンパク質量の経時的変化を調べた。交尾を終えたばかりの女王を恒温室にて個別飼育し、水のみを与えてコロニー創設を行なわせた。23頭の女王について、仔の成長段階ごとの個体数を毎日記録した。また、創設開始から0,10,20,30,40,52日目に、各10頭の女王を固定した。これらを熱乾燥機にかけ、乾燥重量を計量したのち、有機溶媒中に浸漬して脂質を除去した。再度乾燥させて計量した除脂肪体重をタンパク質量の指標とし、乾燥重量と除脂肪体重の差分を脂質量の指標とした。幼虫とワーカーの出現時期から、女王が仔に給餌する期間は創設開始後およそ20日目から50日目までと推定された。創設女王の脂質量は創設開始後まもなく低下し始めていたが、タンパク質量は産卵開始後しばらくの間一定の値を保っており、仔への給餌の開始後に減少していた。したがって、蟄居型コロニー創設を行なうクロオオアリの女王において、脂質は主に女王自身の営巣や育仔のためのエネルギーとして消費され、タンパク質は主に仔へと給餌されていると考えられた。