| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-F-192  (Poster presentation)

無脊椎動物における捕食リスクに応じた産子調節

*稲田美和(奈良女・院), 遊佐陽一(奈良女), 和田葉子(奈良女)

 水圏・陸圏の動物を問わず、一般に生まれて間もない個体は、サイズが小さく防御手段も未発達で、捕食されやすいと考えられる。よってこの時期の捕食リスクを減らすことは親にとって極めて重要なはずである。ところが胎生または卵胎生の生物が、捕食リスクに応じて短期的に産子数を減らすこと(産み控え)を明確に示した例はほとんどないようである。そこで本研究では、国内の淡水域にごく普通にみられる卵胎生のヒメタニシSinotaia quadrata histricaと、春先の畑地などに高密度で生息する卵胎生のソラマメヒゲナガアブラムシMegoura crassicaudaが、捕食リスクに応じて産み控えを行うかどうかを調べた。
25℃に設定した室内において、被食者(タニシまたはアブラムシの雌1個体)を匂いの通る小容器に入れ、3.5 Lのプラスチック容器に入れた。捕食者処理として、被食者が1日以内に産んだ全ての子供とそれぞれの捕食者(アメリカザリガニProcambarus clarkii、またはナナホシテントウCoccinella septempunctata)1個体を、被食者の雌とは別の小容器に入れ、同じプラスチック容器内で捕食時の匂いが行きわたるようにした。他方、コントロール処理には捕食者を導入しなかった。その結果、タニシ・アブラムシとも、捕食者処理ではコントロール処理より1日当たりの産子数が有意に小さくなった。また、捕食者を取り除いた後には、処理間で産子数に有意な違いがみられなくなった。このことから、両種で捕食リスクに応じて産み控えを行うことが示された。水圏の軟体動物と陸圏の節足動物という非常に隔たった生息域および分類群の動物で共に産み控えがみられたことから、従来は知られていなかったものの、産み控えは広く見られる対捕食者戦略の一つであるのかもしれない。


日本生態学会