| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-F-197 (Poster presentation)
安定同位体分析は、動物の食性、移動、および食物網構造を解析する優れた手法である。魚類を対象とした安定同位体分析は、これまで主に筋肉が用いられてきた。筋肉の同位体比は変化速度が遅く、半年から1年の平均的な食性を反映するため、短期的に生じた変化に影響されにくい点で優れているが、季節的な食性変化を明らかにしたり、移動直後の食性を把握することには対応できない。これを解決するため、粘液や血漿、鰭など短時間で置換することが分かってきた組織を分析することが提案されている。しかし、置換速度や濃縮係数は、種や組織によって異なるため、これらの基礎的知見を集積して一般性を確認することが重要である。
我々の研究では、淡水魚3種(アブラハヤ、カワムツ、モツゴ)の体表粘液、鰭、および筋肉の炭素・窒素安定同位体比(δ13Cおよびδ15N)の変化を比較するため、飼育実験を行った。野外で採取した稚魚を550L水槽(16~18℃)に入れ、事前によく混ぜた配合飼料で体重が10倍以上になるまで成長させた。その後、同位体比が異なる餌(冷凍赤虫)を与え続け、経過日数ごとにサンプル採取を行い、3〜5ヶ月間の変化を観察した。
同位体変化の半減期は、粘液で62~144日、鰭で57~202日、筋肉で196~680日であった。粘液の置換は、先行研究のニジマスやナマズと同様に筋肉よりも速かった。鰭も筋肉よりは早く置き換わる傾向を持っていたが、おそらく不均一な構造を反映して、δ13Cの濃縮係数に大きな種間変異が見られた。以上の結果より、これまで使用されてきた鰭や筋肉の代わりに体表粘液を使用することは、魚類の食性、移動生態および食物網構造の短期的変動を調査する上では有利であると考えられる。また、置換の遅い組織とともに分析することにより、異なる時間スケールでの食性や移動の履歴を研究することも可能になる