| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-F-205 (Poster presentation)
昆虫の発育速度は気温と強い正の相関があるので、多くの昆虫では、緯度が上がるにつれて年間世代数が減少することが知られている。しかし、ウラナミジャノメ(タテハチョウ科)は、このような標準的な傾向とは異なる性質を示すことが知られている。本種は、西日本を中心に主に1化性と2化性の個体群が分布するが、同緯度同標高の隣接した個体群間でも化性変異がみられ、緯度クラインを示さない。1化性個体群も2化性個体群も主に6月に越冬世代が羽化・繁殖するため、次世代の幼虫は一年で最も日長が長い時期に若齢幼虫期を経験することになる。先行研究では、長日条件では全ての個体群が休眠せずに年内に羽化したが、野外では1化性個体群は若齢幼虫期に長日条件を経験しても休眠しているので、本種の休眠誘導にはさらに複雑な仕組みがあるはずである。演者らは休眠を決定するタイミングに着目し、「1化性個体群が日長によって休眠を決定する時期が2化性個体群よりも遅い」という仮説の検証を行った。近畿地方の隣接する4つの個体群(2化:八尾と家島、1化:男鹿島と加古川)を用い、様々な齢期で、長日条件(16L8D)から短日条件(13L11D)に移し替える実験を行った。その結果、予想されたように、日長感受期は2化性個体群(八尾:1-2齢以降、家島:2-3齢以降)よりも1化性個体群(男鹿島:3齢以降)の方が遅い幼虫段階にあり、また幼虫の発育速度も1化性の方が遅かった。以上から、1化性個体群は2化性個体群よりも遅い時期(野外では日長が短くなった時期)に休眠を決定していることになり、従って、年内に第2化が出現しないと考えられる。一方で、1化性の加古川産は日長に対する反応を示さず全て休眠し、2化性の八尾産と家島産の日長感受期も異なっていた。同じ化性であっても休眠誘導の仕組みが異なるということは、化性が個体群ごと独立に進化した可能性を示している。