| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-F-211 (Poster presentation)
捕食者は、特定の餌種が高密度で存在する場合に、より捕食に適した形態(攻撃形態)を可塑的に発現することがある。栄養獲得効率の点では、高密度の餌種に対して攻撃形態を発現することは、適応的な振る舞いのように見える。しかし、捕食者は攻撃形態の誘導因子とならない餌種(第三者)も利用している。従って、攻撃形態の発現の適応性や生態学的帰結を論じるには、攻撃形態の発現により第三者の利用がどのように変化するのかについても考慮する必要がある。
エゾサンショウウオの幼生は、同種個体及びエゾアカガエルの幼生が高密度で存在すると、顎の大きな攻撃形態を発現することがある。攻撃形態を持つ個体は2種を効率よく捕食できるため、体サイズも急速に大型化する。しかしエゾサンショウウオ幼生は両生類幼生だけでなく、水生昆虫や陸生昆虫など大顎化の誘導因子ではない餌種も利用する。本研究では、野外池から採集したエゾサンショウウオ幼生の形態測定と胃内容物分析を行い、攻撃形態の発現でこれら第三者の利用がどのように変わるのかを調べた。
胃内容物には、ユスリカ幼虫、ミズムシ、陸生昆虫などサイズの異なる様々な生物が含まれていた。餌サイズを従属変数とし、顎形態と体サイズおよびそれらの交互作用を説明変数とする一般線形モデルを分析した結果、(1)体サイズが大きくなるほど大きなサイズの餌を利用すること、(2)顎形態と体サイズの交互作用が有意で、体サイズが小さい場合には顎の大きな個体ほど大きなサイズの餌を捕食していることが分かった。エゾサンショウウオ幼生による攻撃形態の発現は、誘導因子のみならず第三者に対する捕食を強めることで、エゾサンショウウオ幼生自身の成長と、餌群集の個体数変化に影響するのかもしれない。