| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-F-214 (Poster presentation)
汽水生息種をはじめ, 一部の魚類は広い塩分環境に耐性をもつ(広塩性). しかし, そのような魚類においても, 塩分は回遊や生息場所選択に大きな影響を与える重要な環境要因であり, 塩分によって生理コストが異なる例や, 周囲の塩分変動幅を極力抑えるよう盛んに移動する例が知られている. 一方, 成魚が河川汽水域から上流域にかけて広く出現するハゼ科のスミウキゴリでは, 淡水域に生息する個体であっても, 実験下では淡水より塩分20‰の汽水を選好することが知られており, 塩分が必ずしも本種の回遊に直接的な影響を与えているわけではないことが示唆されている. 本研究では, 広塩性魚類の回遊と塩分との関係をより深く理解するために, スミウキゴリにおける塩分と生理コストの関係に注目した2つの室内実験(実験1, 2)を行った. 実験には京都府伊佐津川水系の淡水域で採集された成魚を用いた. まず実験1では, 異なる塩分下(0, 10, 20, 30‰)で絶食させ, 体重減少率を比較した. 体重減少率は塩分馴致後の7および10日目に, 塩分20・30‰中よりも0・10‰中で有意に大きく, 元の生息環境の塩分条件における大きな生理コストの存在が示唆された. 次に実験2では, 塩分変動の大きい汽水域環境中での生理コストを検討するために, 淡水から直接, もしくは1/2海水を経て海水に移行する操作を行った. その結果, 実験に用いた全個体が16日以上生存し, 体重減少は実験1の塩分0‰区よりも緩やかな傾向にあった. 以上よりスミウキゴリの塩分ハビタット選択において, 浸透圧調節コストは決定的な要因ではなく, 他の環境要因(例えば, 餌資源や近縁種との相互作用など)によってより強く規定されていることが示唆された.