| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-F-215  (Poster presentation)

ハオリムシ-化学合成細菌共生系の数理モデル

*佐藤正都(総合研究大学院大学)

光の届かない深海では化学合成細菌に依存した化学合成生態系が存在している。熱水噴出孔や湧水域に生息する無脊椎動物はそれらの化学合成細菌を体内に共生させることでエネルギーを得ている。シロウリガイなど多くの生物が垂直伝播による共生者の継承を行っているがハオリムシでは例外的に水平伝搬によって共生者を獲得している。水平伝搬系では各世代ごとに環境中から新たに共生者を獲得する必要があるため、宿主体内から環境へ共生者が放出されるプロセスが必要となる。ところが、ハオリムシと化学合成細菌の系では、共生者の環境中への放出は宿主であるハオリムシの死亡時に限られている。そのため、共生系が維持されるにはある程度以上高い率で宿主が死亡する必要があると考えられる。しかし、ハオリムシの寿命は長く100年以上生きる場合もある。

このように水平伝搬に適さないような条件下でこの共生系がどのように維持されているのかを明らかにするため、ハオリムシと共生細菌ののライフサイクルを記述する数理モデルを構築し、個体群動態と宿主であるハオリムシの死亡率の進化について解析を行った。

その結果、宿主の死亡率が極端に低い値もしくはある程度よりも高い値を取るときには宿主と共生者の個体数はともに非常に小さくなり、その中間の値で個体数が最大となることがわかった。したがって共生系が安定的に維持されるには宿主の死亡率がある範囲に収まっている必要がある。また、共生細菌の戦略は、宿主体内での増殖効率が良いほど宿主を長生きさせるように進化することがわかった。


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