| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-H-246 (Poster presentation)
本研究では,北東アジアの大陸域における落葉広葉樹林の主要構成樹種でありながら,日本の本州中部の内陸部と北海道東部に隔離分布するヤエガワカンバ(Betula davurica Pall.)に着目し,大陸と日本のヤエガワカンバを伴う森林植生の種組成の類似性と本種の分布変遷を検討することを目的とした.種組成比較では,植物社会学的手法を用いて日本の本州中部内陸部と北海道東部においてヤエガワカンバが出現する林分で植生調査を行った.これに北東アジアの大陸域の既存資料を加え,総合常在度表を作成し,表操作と階層クラスタリングによる解析を行った.ヤエガワカンバの分布変遷の解析には北東アジアスケールにおける本種の種分布モデルを構築し,最終氷期の気候シナリオを組み込むことで,最終氷期における潜在分布域を予測した.
北東アジア全体におけるヤエガワカンバを伴う森林植生は草原性の種を伴う草原型(モンゴリナラ-ヤエガワカンバクラス)とモンゴリナラ(日本ではミズナラ),イヌエンジュ,イタヤカエデなどを伴う落葉広葉樹林型(モンゴリナラクラス)に区分された.日本列島のヤエガワカンバ林は,朝鮮半島,中国北東部やロシアのシホテ-アリニ付近の落葉広葉樹林の種組成に近いことがわかった.一方,東シベリアのザバイカリエ地方などとは種組成が大きく異なっていた.種分布モデリングにより,最終氷期における本種の潜在分布域は日本列島の東北地方太平洋側から西日本にかけて広く分布し,朝鮮半島,中国東部と連続的な分布であったと予測された.現在の日本のヤエガワカンバ林の種組成が大陸の落葉広葉樹林と近いことから,最終氷期に日本から朝鮮半島,中国東部にかけて大陸型落葉広葉樹林が連続的に分布していたと考えられる.最終氷期後,気候の温暖化と共に日本では海洋性気候が発達し,ヤエガワカンバを伴う大陸型落葉広葉樹林は本州中部の内陸部まで分布が縮小した可能性が高い.