| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-H-249 (Poster presentation)
人為的な攪乱を受けていない熱帯の天然林では局所的な樹木種の多様性は密度依存的な死亡と加入により時間とともに上昇することが予想される。また、森林伐採により、一時的に多様性が損なわれたとしても密度依存的な死亡と加入により急速に伐採前のレベルまで回復するとも予想される。しかしこれら予想を野外で実証した研究はまだない。そこで本研究では、半島マレーシアパソ保護林(未伐採林)と54年前(1958年)に択伐施業を受け、現在更新中の二次林(択伐林)で得られた毎木調査データを用いて以下の三つの疑問に答えることを目指した;1)択伐林では多様性が伐採前のレベルまで回復したのか?2)未伐採林で確認された密度依存的な死亡と加入は択伐林でも確認されるのか?3)択伐林では予想通り多様性は時間とともに上昇しているのか?調査には未伐採林に設置した50haプロットの1985年から2000年に5年おきに行われた毎木調査のデータと、択伐林に設置した6haのプロットの1998年から2012年に2年おきに行われた毎木調査のデータを用いた。択伐林では択伐施業により胸高直径45cm以上のすべての樹木が伐採されている。解析の結果、以下の四つのことが明らかになった。①2000年において、未伐採林、択伐林の種組成は有意に異なっていた。②未伐採林では時間とともに多様性は上昇していたのに対して、択伐林では予想に反して時間とともに多様性は減少していた。③択伐林の多様性は伐採前のレベルまで回復していなかった。④未伐採林では密度依存的な死亡と加入が確認されたが、択伐林では確認できなかった。これらの結果から伐採により損なわれた多様性は、伐採前のレベルまで回復するかどうか極めて疑わしいことが示唆された。熱帯林の生物多様性を保護するためには択伐後の回復を天然更新に委ねるのでは不十分で、寧ろ攪乱の全くない熱帯林を守ることが不可欠であると言える。