| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-H-250 (Poster presentation)
現在、ヒノキが優占している原生林は限られた地域にのみ成立しているが、花粉分析や考古学的研究などから、人の手が加わる以前、ヒノキは他の広葉樹とともに、日本の温帯地域で大規模な針広混交林を形成していた可能性が示唆されている。一方、ヒノキは光要求性が高いことが多く報告されており、原生林のような攪乱が少ない環境では、個体群を維持することが難しいと考えられる。それにも関わらず、ヒノキが過去に広葉樹と大規模な針広混交林を形成していたことは、日本の温帯植生の成因を理解する上で解決すべき謎である。ヒノキが広葉樹と混交林を形成できる理由として、土壌栄養の効果が考えられる。一般的に針葉樹は広葉樹と比較して貧栄養環境に対する耐性が高いことが知られている。そのため、ヒノキは攪乱が少ない環境であったとしても、貧栄養環境において個体群を維持でき、ヒノキと広葉樹の間で棲み分けが可能になると考えられる。そこで本研究では、土壌栄養の変化に対する応答がヒノキと広葉樹では異なり、貧栄養環境では富栄養環境と比較して、ヒノキは稚樹密度が高く、一方で広葉樹(本研究ではブナ科を対象とする)は稚樹密度が低い、という仮説を立てた。この仮説を検証するために、ヒノキが優占している京都大学上賀茂試験地と、東京大学赤津研究林にて、各14、18個の10×10mのプロットを作成し、ヒノキと広葉樹の稚樹密度に対する、光や土壌栄養などの環境要因の影響を定量・比較した。その結果、赤津研究林では上賀茂試験地と比較して可溶態リン濃度と無機態窒素濃度が有意に低かった。また、プロット当たりのヒノキの稚樹数は、上賀茂試験地と比較してより貧栄養な赤津研究林で多かった。一方、広葉樹の稚樹数は、赤津研究林で少なかった。これらの結果は、土壌栄養環境に対する種の応答の違いが、ヒノキと広葉樹の共存に重要な役割を果たしている可能性を示唆している。