| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-H-258 (Poster presentation)
森林における斜面崩壊は、森林発達段階における光環境と土壌栄養塩の不均一性を生み出し、群落組成のモザイク化の要因として重要である。特に斜面崩壊地では、生物由来の窒素が生態系発達を規定するため、樹木種の窒素利用効率を生育環境への適応指標として捉えることができる。そこで本研究は、斜面崩壊後に成立した森林における種組成変化の特徴とそのメカニズムを、斜面崩壊時期を傾度に種組成と樹木のサイズ構造および優占種の窒素利用効率の違いを比較した。
調査は静岡県静岡市の筑波大学井川演習林で行ない、約65年前と40年前に崩壊した2地点と、65年前まで崩壊記録のない1地点に調査区を設定した。その結果、約40・65年前の崩壊地ではカバノキ科ハンノキ属種が優占し、胸高直径階分布は一山型を示したため、一斉更新をしていると推測された。一方で、65年前まで崩壊記録のない地点では同科クマシデ属種が優占し、その胸高直径階分布はL字型を示し、連続的な更新をしていると推測された。以上から、崩壊後まもなくはハンノキ属樹種が一斉に定着し、森林発達とともにクマシデ属樹種などが優占するように遷移していったと推察した。
また、ハンノキ属樹種は窒素利用効率が低く、落葉中の窒素含有量が多かった。ハンノキ属樹種は窒素固定能力があるため、崩壊直後の窒素制限下でも生育が可能で、斜面崩壊地の土壌へ窒素の供給源としての機能が示唆される。一方、クマシデ属種の窒素利用効率は高く、窒素制限下での効率的な成長が示唆された。クマシデ属種の樹高構造と生葉中の窒素量の関係を比較すると、樹高の高いイヌシデよりも樹高の低いサワシバで少なくなっていた。そのため、生葉中の窒素含有量の違いは、種間の耐陰性や受光環境の違いを反映していると考えられる。
以上から、斜面崩壊地における森林発達は、表土撹乱を伴う更新定着様式と窒素利用効率の種特性差違によって引き起こされると結論した。