| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-H-267 (Poster presentation)
樹木の実生が倒木上に更新する現象は倒木上更新と呼ばれ、樹木の重要な更新様式の1つである。倒木上更新には、菌類による材の腐朽型や、倒木表面のコケの有無、菌根菌や病原菌といった実生根圏の微生物群集など様々な要因が影響することが知られているが、これら複数の要因の相互作用が実生更新に与える影響はよく分かっていない。本研究では、本邦亜高山帯に分布するトウヒを対象として、倒木上の実生更新にはたす材の腐朽型、コケ、およびコケマットの菌類群集の役割を調べた。
調査はトウヒの優占する御岳山の亜高山帯針葉樹林で行った。倒木上のトウヒ実生密度を従属変数とし、コケ群集、材の腐朽型(白色腐朽、褐色腐朽の有無)を含む倒木の環境変数との関係を解析した。さらに調査地で優占していたコケ2種(キヒシャクゴケ、タチハイゴケ)とそれぞれのマット上に定着していたトウヒ実生の根を採取し、 次世代シークエンサー(MiSeq)を用いたメタバーコーディングにより菌類群集を評価した。
褐色腐朽はキヒシャクゴケの倒木上への定着を促進する効果があり、このコケのマットにはトウヒ実生の定着を促進する効果が認められた。トウヒ実生密度をコケ2種間で比較するとタチハイゴケよりもキヒシャクゴケのマットで高くなることが示された。菌類群集は、コケ2種間で有意に異なったが、実生根の菌類群集は定着基質であるコケの種による有意な影響は認められなかった。しかし、コケと実生根で共通する菌根菌の優占種がコケ2種間で異なったことから、菌根菌の種による養分輸送や病原菌抵抗性の付与といった機能の違いがトウヒ実生の定着に影響している可能性がある。
以上の結果から、倒木の腐朽型がコケの群集構造を介してトウヒ実生の定着に影響している可能性が示唆された。さらに、コケ群集が実生に与える影響は、コケマットの菌類相によるものである可能性が示唆された。