| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-H-271 (Poster presentation)
動物とは異なり、多くの植物は世代交代を行い、配偶体(単相世代)と胞子体(複相世代)が交互に発生する。 配偶体と胞子体の形態が異なる場合は異型世代交代、同じ場合は同型世代交代 という。海産緑藻類には異なる世代交代様式を持つ種が存在する。これらの多様性の解明には世代間の形質比較が求められるが、通常、世代交代様式は1種で1パターンであると考えられており、比較に必要な「世代交代様式に種内多型を持つ生物」はほとんど知られていない。
エゾヒトエグサは異型世代交代を行う海産緑藻である。多細胞の配偶体は雌雄配偶子を生産する。それらが接合して生じた接合子は、単細胞の胞子体に成長する。胞子体は減数分裂により遊走子を生産し、それらは雌雄どちらかの配偶体に発生する。
我々は、通常単細胞の胞子体に発生するエゾヒトエグサの接合子が、遺伝的に同一であっても配偶体によく似た多細胞藻体に発生する場合があることを発見した。この多細胞体は核内のDNA量が配偶体の倍であり、細胞サイズも大きかった。この多細胞体は以下のように生殖を行った。1)負の走光性を持つ2倍体の遊泳細胞を放出し、遊泳細胞は胞子体に単為発生した。この胞子体は遊走子を生産し、雌雄配偶体が発生した。2)この多細胞体を単離培養していると、雌雄配偶体が発生してくることがあった。
本研究は、接合子の発生運命が遺伝的な違いなしに変化し、生殖可能な同型胞子体に発生すること、を緑藻類で初めて示した。1)の経路は、紅藻類における3相生活史(triphasic)とよく似ている。2)の経路は、発見した多細胞体が同型世代交代における胞子体として機能している可能性を示唆する。エゾヒトエグサは異なる世代交代様式における種内形質比較を可能にし、生活史多様性の実証研究に新たな切り口を与えるかもしれない。