| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-J-313 (Poster presentation)
毛繕いは,個体の体毛の衛生維持のための行動であり,霊長類をはじめとする哺乳類で盛んに研究されている。毛繕いは,自らに行う場合(autogrooming)と他者に対して行う場合(allogrooming)があり,後者は社会的機能をもつと考えられている。鳥類においても他者への羽繕いは,親から子や,それ以外の個体間でも起きることが報告されており,配偶・繁殖システムや形態の性的二型との関連が議論されている。
羽繕いは,つがい雌雄間でしばしば起きることから,つがい形成・維持機能をもつと推測されている。一方,羽繕いは非つがい個体間にも起きることが一部の種で報告されているものの,つがい形成を含めた社会的機能の理解は進んでいない。ハシブトガラスは長期的一夫一妻種であり,3年齢までの若鳥は雌雄混成の非繁殖群をつくる。このような社会生態は,若鳥からつがい形成に至る生活史における羽繕いの機能を多面的に理解するのに適している。
本研究は羽繕いの社会的機能の解明を目的とし,集団飼育下のハシブトガラス若鳥において性別と優劣関係が羽繕い頻度に与える効果を検討した。生後約1年で野生捕獲後,屋外集団ケージにて飼育された同齢個体からなる2群(8羽,10羽,性比1:1,同年生まれ)について,満1~2.5年齢の期間に観察された羽繕いと攻撃行動を解析した。その結果,羽繕いの頻度は性別と優劣関係によって異なった。羽繕いは,オス間で最も多く,異性間及びメス間では少なかった。さらに,優劣関係が明瞭なオス間では,羽繕いは優位から劣位に一方向的に行われていた。異性間では,オスからメスへの羽繕いは1歳時から継続生起したのに対し,メスからオスへの羽繕いは1歳時には少なく,2歳以降増加した。これらの結果より,オス間の羽繕いには優劣関係の維持,異性間の羽繕いにはつがい形成という機能がある可能性が示唆された。