| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-J-314  (Poster presentation)

屋久島に生息するニホンザルの高順位個体は採食競合による利益を得ているか

*栗原洋介, 半谷吾郎(京都大学霊長類研究所)

群内採食競合は群れをつくるコストのひとつである。一般的には高順位個体が採食・繁殖上の利益を得ると想定されるが、順位が適応度にあたえる影響の大きさは食物条件により異なりうる。多様な環境にすむニホンザルはそれを理解するのに理想的な研究対象である。餌付け群および冷温帯林にすむ野生群では高順位メスが採食・繁殖上有利であると知られているが、暖温帯林にすむ野生群では十分に検討されていない。本研究の目的は、屋久島海岸域に生息するニホンザルにおいて、成獣メスの順位が採食行動、エネルギー収支、出産率にあたえる影響を解明することである。2012年10月から2013年10月の間、個体追跡により成獣メスの直接観察を行い、活動、採食品目、単位時間あたりの採食量(採食速度)、追跡個体の位置を記録した。個体の順位は攻撃交渉の結果から決定した。行動データと食物の栄養含有量をもとにエネルギー摂取速度を推定した。行動観察と並行して尿サンプルを収集し、エネルギー収支の指標であるCペプチド濃度を定量した。また、2012年から2016年の群れ構成のデータから出産率を計算した。低順位メスは被攻撃頻度が高かった。しかし、採食効率(採食速度・利用食物のエネルギー含有量・エネルギー摂取速度)および採食努力(採食時間・移動距離)に順位による違いはなかった。その結果、順位はエネルギー収支および出産率に影響していなかった。低順位メスは攻撃を受けやすいが、採食行動およびその結果であるエネルギー収支や出産率に順位の影響はみられなかった。屋久島海岸域では採食樹密度が大きいため、餌付け群や冷温帯林にすむ野生群とは異なり、攻撃を受けた低順位メスが小さいコストで別の採食場所を利用できるためだと考えられる。本研究の結果は、順位が適応度にあたえる影響の大きさは食物の分布により異なることを示唆している。


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