| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-J-321 (Poster presentation)
分散は生物の適応度を左右する活動で移出・移動・定着の3過程からなるが、これまでは観察が容易な移出過程ばかりが研究されてきた。ハダニとその捕食者のカブリダニは小型で翅を持たないので、室内で歩行分散の全過程を観察可能である。最近の研究により、分散ステージのハダニ雌成虫はカブリダニに気づくと、餌不足で分散する場合に比べてより遠くのパッチに定着することがわかっている。
餌葉片を非餌基質のパラフィルムで架橋した装置を用いて、仲間(同種他個体)の存在がケナガカブリダニから分散するカンザワハダニの定着先に及ぼす影響を検証した結果、捕食者から分散するハダニは、仲間が網を張って定着しているパッチに遭遇すると、より遠くへ移動するのを止めることがわかった。これはハダニが網に侵入できない捕食者に対する防御を求めることが究極要因と思われる。
次に、ハダニが仲間の網に合流する至近要因を明らかにするために各要因を分離して検証したところ、仲間の存在そのものや網、卵の効果は小さいことが示された。その一方で、パッチを細分してその一部に仲間の食害痕をつけると、ハダニはそのパッチ(葉片)の未食害部ではなく、食害痕とその近くに定着しやすかった。このことから、仲間の食害によって葉全体に誘導される反応等ではなく、仲間の食害痕そのものが移動中のハダニを定着させる至近要因であることがわかった。