| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-M-359 (Poster presentation)
シカ類の個体群管理は、通常生息密度に基づいて実施されているが、広域にわたって高い精度や確度で密度を推定することが困難である。そのため、密度に替わって密度に敏感に反応する生態的指標の変化を把握することの重要性が指摘されている。シカ類の生態的指標として、体重・体サイズが広く用いられてきたが、種や性・齢や計測項目により密度効果が異なることが知られている。そこで、ニホンジカの体重・体サイズ(後足長・下顎長)の生態的指標としての有効性の検討を、異なる密度水準にある知床半島のエゾシカの3地域個体群を対象に、幼獣・成獣オス・成獣メスに区分して比較した。なお、体サイズについては出生年(コホート)で比較した。対象とした個体群はいずれも過去に増加し、知床岬(CS)・幌別-岩尾別(HI)の2個体群は、環境収容力(K)に到達し高密度となった後に、捕獲により低密度で維持されている。一方、真鯉-遠音別(MO)の個体群 は継続した捕獲によりKに未到達で維持されている。
体重は、MOの全ての性・齢クラスで経年的に減少したのに対し、骨格では部分的な変化しか認めらなかった(体重が骨格よりも敏感に反応)。後足長は、 MOの幼獣、CS・HIの成獣で減少が確認され、間引き後に幼獣では増加した(幼獣が成獣よりも敏感に反応)。下顎長は、MOの成獣オス、HIの成獣メスで減少が確認された(成獣オスが成獣メスよりも敏感に反応)。以上からニホンジカの体重・体サイズの密度に対する反応の序列をまとめると、幼獣>成獣オス>成獣メス、体重>後足長・下顎長となることが示唆された。これらのうち、幼獣の後足長は、密度の変化に敏感なうえ、かつ野外で容易に正確に計測できるため、個体数増加を早期に検知するうえで重要な生態的指標である。また、一連の生態的指標の変化の序列は個体群の状態を診断する上で有効である。