| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-M-361 (Poster presentation)
世界自然遺産登録地の屋久島では、ヤクシカ(Cervus nippon yakushimae)が高密度化している。高密度のヤクシカ個体群は、餌資源(林床植生)が減少した環境下で、これまで利用しなかった不嗜好性植物や落ち葉・芽生えを採食して高密度状態を維持している可能性がある。本研究では、胃内容物のDNA分析および野外実験によってこの可能性を検証した。
餌資源(林床植生)が減少した高密度地域である矢筈岬で捕獲された22個体の胃内容物からDNAを抽出し、次世代シーケンサー(MiSEQ)を用いてrbcL領域の配列を決定し、得られた配列のBLAST検索により植物種を同定した。加えて、同一植物の若葉・成葉・落ち葉に対する選択実験および追跡による直接観察を矢筈岬で行い、選好性を評価した。
DNA配列で採食が確認された上位5種(モクタチバナ・タブノキ・ヤブニッケイ・アコウ・ヒメユズリハ)はすべて常緑高木種であり、調査地で採食可能なのは落葉と芽生えだった。胃内容物から検出された70種のうち15種は不嗜好性植物、直接観察で採食した種の8割が不嗜好性植物だった。選択実験の結果、ヤクシカは不嗜好性植物の若葉を嗜好植物と同じ割合で利用していた。これらの結果から、矢筈岬のヤクシカは、高木種の落ち葉や芽生え、不嗜好性植物の若葉を主に利用し、高密度状態を維持していると考えられる。