| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-M-362 (Poster presentation)
サンゴ礁保全において、造礁サンゴの天敵であるオニヒトデの大量発生は大きな問題となっている。オニヒトデは大量の卵と精子を放出するため、理論上、高い受精率とその後の高い幼生生存率が大量発生の根本的な原因と成りうる。しかし、これまでオニヒトデの受精率の年変動に関する知見は全く、実験室でも受精率に関する知見は乏しい。近年、オニヒトデと同じく放精放卵型の繁殖戦略を持ち、大量発生を起こすムラサキウニにおいて、受精関遺伝子型の相性が受精時の環境(主に精子濃度)により左右され、受精率に影響を及ぼすことが示唆されている(Levitan and David. 2006)。そこで本研究では、オニヒトデにおいても個体間で受精率の相性が存在しうるのか、またこの相性が異なる精子濃度により影響を受けるのかを調べた。
成熟したオニヒトデは、沖縄県で雄7個体、雌13個体、宮崎県で雄6個体、雌6個体をそれぞれ大量発生している集団から採集した。親個体から生殖腺を取り出し、異なる個体間での受精を試みた。受精実験では、精子濃度を最も濃い約1.0×106個/mlから5段階に10倍ずつ希釈し、各希釈段階の精子をそれぞれ100個の卵に添加した。受精直後2時間以内に実体顕微鏡を用いて観察し、全体から受精膜が形成された卵の割合を受精率として結果を得た。
沖縄及び宮崎での受精実験の結果、ある雌個体と雄個体の組み合わせでは受精率が高いが、同じ雌個体と別の雄個体との組み合わせでは受精率が低いといったように、親個体の組み合わせによって受精率が11~90%と大きく変化することがわかった。このことから、オニヒトデの親個体間には何らかの受精相性が存在することが示唆された。またこの結果は、各希釈段階の精子濃度によって異なったことから、受精相性は精子濃度により影響を受けることも示唆された。現在は、その相性の原因が何であるのか、受精関連遺伝子の配列やマイクロサテライトを用いた近交度の比較を行っているところである。