| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-M-365  (Poster presentation)

三方湖(福井県)におけるヒシ分布範囲の年変動に塩分濃度が影響する可能性の検討

*石川みくり(東大院・総合文化), 石井潤(福井県里山里海湖研), 西廣淳(東邦大・理), 吉田丈人(東大院・総合文化)

福井県の三方湖は、富栄養化が進んだ浅い淡水湖である。日本海に近く、時に湖の北西部で接続する汽水湖(水月湖)から汽水が流入する。2008年以降、三方湖では一年生の浮葉植物ヒシが急増し、生態系管理上の課題となっている。効果的なヒシ群落管理のためにはヒシの分布域の予測が望ましく、繁茂期である夏のヒシ分布を決める要因の推定が求められている。そこで、ヒシ分布範囲の年変動を把握し、その変動をもたらす要因を検討した。

夏に三方湖上空で撮影された空中写真(2009-2016)から、湖内のヒシ分布を抽出した地図をGISで作成し、湖面に対するヒシの被覆率(以下、占有面積率)の算出およびヒシ分布範囲の年変動を可視化した。その結果、2010年は占有面積率が67%と湖の北西部と南東部を除いた全ての湖面にヒシが分布していたが、2016年は15%と湖の西側から湖心部にかけてヒシが顕著に消失した。汽水流入によるヒシ分布への影響を検討するため、各年の日本海潮位と流入河川水位との差を比較したところ、春に潮位が高いことで河川水位との差が縮まった年ほど占有面積率は低かった。

2015年秋に湖内で採取した種子を野外の暗下水中条件に約5ヶ月間保管した後、2016年4月に種子を詰めたメッシュバッグを湖底3地点に設置し、展葉開始期に当たる6月に回収して発芽、休眠、死亡種子の割合を調べた。その結果、水月湖から離れた地点でも発芽率は低く死亡率が高かったことから、多くのヒシが成長初期段階で生育阻害を受けたと推察された。また、2016年4月に埋土種子密度が高かった地点でも、同年夏に繁茂したヒシは少なかった。これらの原因として、成長初期段階に当たる春の塩分濃度が高かったことが考えられた。

以上の結果により、三方湖での夏のヒシ分布の決定要因として水中の塩分濃度が有力であり、日本海潮位と流入河川水位のバランスで塩分濃度が決まると考えられた。


日本生態学会