| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-N-376  (Poster presentation)

クローナル繁殖によるフジの空間分布拡大および更新特性 ―遺伝解析による解明―

*森英樹(筑波大学生命環境), 上野真義(森林総研), 松本麻子(森林総研), 上條隆志(筑波大学生命環境), 津村義彦(筑波大学生命環境), 正木隆(森林総研)

木本性ツル植物フジは匍匐枝によって水平方向に分布拡大するクローナル植物である。しかし、これまでフジのクローナル繁殖の評価は、掘り返しによる少数個体を対象とした研究に限られていた。空間分布や更新に対するクローナル繁殖の役割を明らかにするためには、様々な環境を含む大面積プロットで網羅的にクローン構造を明らかにする必要がある。
そこで本研究では、大面積プロットに分布するフジのクローン構造を明らかにすることを目的とした。具体的には、茨城県北部に位置する冷温帯老齢林である小川試験地(6haの固定調査区)において、2013年に記録された高さ1.3 m以上のフジを2015年にすべてサンプリングし、マイクロサテライトマーカーを用いて遺伝解析を行った。
遺伝解析の結果、全ラメット数(N=391)の71%がクローナル繁殖に由来することが明らかになった。クローン(ジェネット)のパッチサイズは最大約0.5 haに達した。最も大きい2つのジェネットは、谷地形や沢をまたいで出現した。微地形区分に着目すると、土壌かく乱の少ない上部谷壁斜面にクローン由来のラメットが多く、反対に土壌かく乱が起こりやすい下部谷壁斜面にクローンでないラメットが多く分布した。サイズ分布に着目すると、クローン由来のラメットの方が、幹直径の比較的小さなラメットを含むことがわかった。
フジは見かけ上別個体に見えても、その大部分はクローナル繁殖由来の遺伝的に同一なものであることが本研究から明らかになった。また、本研究では沢をまたいで分布するクローンが特定されたことから、フジはこれまで指摘されていた匍匐枝だけでなく、ホスト樹木の樹冠間を乗り移ることでもクローナル繁殖することが示唆された。また、幹直径の小さなラメットの多くがクローンであったことから、老齢林のような攪乱の少ない閉鎖林冠下では、クローナル繁殖はフジの主な更新様式だと考えられた。


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