| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-N-377 (Poster presentation)
林床植生の種組成は,光環境によって大きく変化する。ニリンソウ(Anemone flaccida F. Schmidt)は典型的な春植物であり,雑木林において落葉広葉樹の葉がない早春に花を咲かせ,樹冠が葉で覆われる夏には地上部から消失し地下部での休眠に入る。ニリンソウについて生態調査を行っている論文は多いが,ニリンソウは休眠したあとも地下部で生育しているにも関わらず季節性に着目した研究は少なく,周囲の植生との関係を調べた研究も少ない。こうした特殊な生活史を持つニリンソウの生態と,ニリンソウを取り巻く植生環境を季節の変化と共に追うことは,春植物を含めた林床植生の保全計画を立てるうえで重要な意義を持つ。
神奈川県相模原市の緑地2ヶ所と,栃木県日光植物園,新潟県十日町市の調査地において,2m×2mのコドラートを30箇所設置し,種別の植被率,全植被率,群落高を季節ごとに記録した。ニリンソウが完全に消長した夏期にはコドラート内における各植物の位置座標と草丈,また,夏期の植生に影響を与える指標として,光量子束密度を計測,林外の値を100%として相対光量子束密度とした。
解析の結果,ニリンソウが消長したあとの各コドラートは,植生に大きな変化が見られないタイプと背の高い夏緑性草本が繁茂するタイプの主に2つの植生タイプに分けられた。両者の分類には光環境が影響しており,夏期でも明るい場所では後者のタイプが成立することがわかった。また,2つのタイプ間では,優占する種,草丈に差が見られた。
今後の課題として,夏緑性草本が春植物とすみわける,共存のメカニズムを把握する必要がある。特にニリンソウが休眠している間における,夏緑性草本との地下部での競合について検討していく必要がある。