| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-N-379 (Poster presentation)
森林を取り巻く環境の変動によって樹木のフェノロジーが変化すると、森林の生産性や種間関係への影響を介して森林の構造や種多様性が変化すると予想される。このため、環境の変動に対する樹木フェノロジーの短期的・長期的な変化を予測することは重要であるが、自然条件下でのフェノロジーにおける集団間・個体間の変異の程度やその原因についての知見が蓄積されていないため、定量的な予測は困難である。本研究では、北日本の多雪地域における主要種であるブナを対象として、開葉フェノロジーの集団間・個体間変異をもたらす要因を解明するため、積雪と遺伝子流動が開葉フェノロジーに及ぼす影響を検討した。調査は青森県八甲田連峰に設けた6調査区において、調査木の観察や融雪状況の測定を行った。積雪と遺伝子流動の影響を検討するにあたって以下の2つの仮説をたてた。1つ目の仮説は、“開葉に要する積算温量は消雪時期によって可塑的に変化し、消雪時期が異なる集団間・個体間でフェノロジーも異なる”という「表現型可塑性仮説」である。2つ目の仮説は“開葉時期を決める主要な遺伝子が集団によって異なり、なおかつ他集団から花粉や種子が移入することによって集団間で遺伝子流動が生じた結果、開葉時期を決定する遺伝子型の集団内変異の程度が大きくなる”という「遺伝子流動仮説」である。観察の結果、一部の集団において消雪日と展葉開始日との間に正の相関が認められたことから、表現型可塑性仮説は部分的に支持されると考えられる。一方、マイクロサテライトマーカーを用いた遺伝分析の結果、開葉フェノロジーが似ている集団ほど遺伝距離も近いという傾向が認められた。さらに、系統樹による分析の結果、近隣にある集団であっても開葉フェノロジーが異なる2集団の場合は、遺伝的組成が大きく異なるという結果が得られた。これらの結果は遺伝子流動仮説と矛盾しないものといえる。