| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-N-382 (Poster presentation)
フタバガキ科樹木は500以上の種から構成され、東南アジア熱帯林において最も種多様性に富む分類群の1つである。その高い種多様性の創出と維持のメカニズムには、古くから関心が向けられてきた。種多様性を生む1つの要因として,種間交雑が挙げられている。一般に種間雑種個体は両親種の中間的な形態をもつことから認識される。マレーシア連邦サラワク州のランビルヒルズ国立公園では、フタバガキ科の同属近縁種であるリュウノウジュ(Dryobalanops aromatica)とホソバリュウノウジュ(D. lanceolata)が生育している。両種は、葉の形態から明確に区別されるが、両種の中間的な葉の形態をもつ個体が見つかっている。本研究では、まずリュウノウジュ、ホソバリュウノウジュ、雑種の可能性のある個体について、SSR12遺伝子座について遺伝子型を決定した。ソフトウェアSTRUCTUREによる解析の結果、2種は対立遺伝子組成によって明瞭に区別された。一方、両種の中間的な葉形態をもつ個体は、両種の集団に由来する対立遺伝子をもち、種間雑種であると判断された。次に、1本の種子親に由来する雑種個体について父性解析を行い、花粉親を探索した。花粉親が推定された64個体のうち、57個体についてはリュウノウジュが、7個体についてはホソバリュウノウジュが花粉親であった。花粉移動距離の平均値は339.2 m、中央値は304.3 mで、ランダム交配から期待される値と差はなかったが、近距離の個体と交配する傾向があった。また、自殖由来の子は見つからなかった。さらに、これらの雑種個体の母樹も雑種であると考えられた。このことは、雑種は稔性をもち、雑種第2代以降の個体が生まれることを示している。