| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-N-383 (Poster presentation)
雌雄異株植物の個体群増加率は、雌雄同株植物に比べ、潜在的に低いと考えられる。1つ目の理由は、種子生産に有効な送粉者の移動が、雄株から雌株への方向に限られるため、厳しい花粉制限にさらされることである。2つ目は、雌株のみが種子散布に貢献するため、雌雄同株植物に比べ散布範囲が狭いことである。しかし、これらの不利にも関わらず、異株植物は群集の中である程度の割合を占めている。異株植物は、送受粉や種子散布の段階での不利を他の生態的特性によって補い、同株植物と共存している可能性がある。本研究では、異株植物と同株植物の共存機構を探るため、個体群増加率に関わる特性として開花開始サイズに注目した。奈良県春日山照葉樹林において、木本30種(異株11種、同株19種)の幹直径と開花の有無を、2016年3月から11月にかけて記録し、開花開始サイズを異株樹種と同株樹種で比較した。各個体のサイズとして、幹直径を種の推定最大幹直径(測定された幹直径の95パーセンタイル)で除した相対サイズを用いた。開花の有無と相対サイズとの関係をロジスティック回帰で記述し、50%の個体が開花するサイズをもとめ、開花開始サイズとした。まず、開花開始サイズに系統的な偏りがあるか調べたところ、有意な系統シグナルは見られなかった。次に、開花開始サイズを応答変数、性表現(異株・同株)、生活形(常緑・落葉)、果実の種類(液果・乾果)、推定最大幹直径を独立変数とした系統学的線形回帰の結果、開花開始サイズは性表現と関係があり、異株樹種は同株樹種に比べ、小さいサイズで開花する傾向があった。雌雄異株植物の早熟性は個体レベルでは、繁殖を早期に開始することにより繁殖機会を増やし、生涯を通じての繁殖成功を高めるかもしれない。個体群レベルでは、繁殖個体の密度を高めることにより、花粉制限の緩和や種子散布範囲の拡大に寄与する可能性がある。