| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-N-386 (Poster presentation)
日本に自生しているツバキ属ツバキ節(sect.Camellia)はヤブツバキ(C. japonica)とユキツバキ(C. rusticana)の2種である。先行研究(三浦2015年度修士論文)によると、ヤブツバキは赤く大きな花弁を持つ鳥媒介植物であるのに対し、ユキツバキの花弁色や大きさは同様に鳥媒シンドロームに属するものの、花粉媒介者は昆虫であることが報告されている。また、ヤブツバキよりもクローナル性が高いユキツバキの種子生産についても未解明な点が多い。そこで、ヤブツバキとユキツバキの花蜜形質および香気成分、さらに種子生産を比較することで、ユキツバキの花粉媒介者への適応を検証した。
花蜜量と糖度は、新潟県佐渡島のヤブツバキと交雑帯ユキツバキ、福島県只見町のユキツバキの3集団を対象に計測を行った。香気成分の測定には、上記の3集団に加え、只見町で更に1集団増やし、計4集団を対象とし、GCを用いて分析を行った。また、種子生産の検証には、佐渡島の交雑帯ユキツバキと只見町のユキツバキの2集団で人工授粉実験を行った。また、自然条件下で結実していた5集団を対象にSSRマーカーを用いて自殖率の解析を行った。
送粉様式では、ユキツバキの花蜜形質は虫媒介植物にみられる送粉シンドロームに一致するものの、花の大きさ、色、香気成分の強さなどは鳥媒形質である可能性が示唆された。種子生産では、人工授粉による結果および自殖率の解析から、ユキツバキはヤブツバキより結果率が低く、ヤブツバキは自家不和合性が高い一方、ユキツバキは自殖でも種子生産ができることが明らかになった。ユキツバキは伏条更新による栄養繁殖を行うことが知られているが、さらに自殖による種子繁殖も行うことで、花粉媒介者の存在に完全には依存していない、ヤブツバキとは異なる繁殖戦略を持っていることが示された。