| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-N-389 (Poster presentation)
多くの生物で性比は1:1であり、フィッシャーの原理で説明されてきた。雌雄異株植物も誕生時の性比は1:1であると考えられるが、いくつかの種で、結花・結実時での性比の偏りが報告されている。植物で性比が偏る一因として、雌雄の生活史戦略(ある環境における繁殖開始サイズ、成長率、死亡率など)の差が上げられる。例えば、モチノキ科植物では、アメリカヒイラギ(Ilex opaca Aiton)とIlex montanaで雄に偏った性比が報告されている。そこで西日本に広く分布しているソヨゴ(Ilex pedunculosa Miq)の性比を広島県ががら山において調査した。2016年の開花時(5月~6月)にかけて、ソヨゴの雌雄判断を行い、位置の把握、胸高直径の測定、生育地(尾根、斜面、谷)の記録を行った。また位置情報から点過程解析により雌雄の分布の重なり具合を定量した。その結果ががら山において、ソヨゴの性比は有意に雄(1.44)に偏っていた。雌雄で胸高直径とサイズ分布の差はなく、雌雄の空間分布も同所的であった。調査地全体を見ると、全ての測定項目において雌雄差が見られず、性比が雄に偏る理由を生活史戦略へ帰すことはできなかった。しかし主としてソヨゴが分布する尾根のソヨゴ個体のみを見ると、性比は有意に雄に偏り、また胸高直径は雄の方が雌より大きく、雌雄でサイズ分布に差があり、雌が大きいサイズで少ないことが分かった。この結果から尾根において、性比に偏りを与える雌雄の生活史戦略の差は、(おそらく雌の繁殖コストの高さによる)大きいサイズでの雌の高い死亡率の可能性が最も高いと考えられた。しかし今回の結果はある一時期のサイズ分布と雌雄の空間分布の観察からの結論である。この考えを検証するために、実際に尾根で雌の死亡率が雄より高くなるか確かめる必要がある。