| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-N-397 (Poster presentation)
進化的袋小路とも言われる植物の自家和合性の生態学的維持機構には、未解明な点が多い。近年の研究では自家和合性植物は種分化率と絶滅率が高いため多様化率が低いことを示唆するものがある一方、その生息域は自家不和合性植物種より広いことを示したものもある。この一見矛盾する自家和合性植物の特徴が、進化的袋小路と呼ばれている自家和合性の維持機構にどのように関係しているのかを説明するため、自家和合性植物の進化ポテンシャルと定着可能性とに着目した理論研究を行った。自家和合性を持つ植物では自家受粉による純化が起こりやすく進化ポテンシャルが低くなるため、環境変動への適応が難しいだろう。しかし、自家和合性があれば同種個体や送粉者無しでも繁殖でき、新たな生息地に定着しやすいだろう。こうした性質により、自家和合性植物は絶滅率が高くなるにもかかわらず、広い分布域を実現し、自家和合性が維持されるとの仮説を立てた。自家和合性植物において進化ポテンシャルを低く、定着可能性を高く仮定した進化シミュレーションの結果、種分化率や分布域、絶滅率は自家和合性植物で高く、種の多様化率は自家不和合性植物で高くなり、既存実証研究で確認されているパターンとの一致が見られた。この結果から、自家和合性の一見矛盾する特徴が進化ポテンシャルと定着可能性とによって説明できることが分かった。さらに、自家和合性植物の定着可能性を自家不和合性と同じ値まで低下させた場合、シミュレーション終了前に全ての個体群が絶滅してしまった。この結果と自家和合性植物で高い定着可能性を仮定した結果とから、自家和合性植物は低い進化ポテンシャルのために絶滅率が高くなるが、高い定着可能性により広い分布域を実現することで存続する可能性を高めていることがわかった。その結果、進化的袋小路と言われているにもかかわらず、植物の自家和合性が維持されていると考えられる。