| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-N-398  (Poster presentation)

有性生殖を制限する繁殖パラメーターは何か?‐シモフリゴケの場合

*丸尾文乃(総合研究大学院大学), 伊村智(総合研究大学院大学, 国立極地研究所)

 陸上植物において、ある種の分布の限界付近では有性生殖を行う個体の割合が減少し、無性生殖に対する依存が増加すると報告されている。本研究では、有性生殖の限界付近において、有性生殖生活環を構成するどの繁殖要因が、有性生殖を制限しているのかを明らかにすることを目的とした。この目的を達成するために、雌雄異株の蘚類であるシモフリゴケ(Racomitrium lanuginosum)の、富士山高山帯の標高傾度における有性生殖の制限状況、フェノロジーと生育環境の関係を調べた。
 標高傾度において胞子体形成に至る有性生殖の成功は、標高3000 m以下に限られていた。オス、メス共に配偶子嚢の形成は山頂付近まで見られたが、オスの配偶子嚢形成数は標高の上昇に伴って減少していた一方で、メスにおいては標高傾度に沿った変化は観察することはできなかった。富士山高山帯におけるシモフリゴケの有性生殖の制限では、標高変化に対する繁殖要因の応答に雌雄差があることが原因の一つとして考えられた。この雌雄差を生じた要因として有性生殖のフェノロジーを調べたところ、フェノロジーのパターンにも雌雄差が見られた。オスと胞子体は成熟に長い時間を要し、発達期間中に冬期を含むため、高標高では低温や短い生育可能期間の影響を受けている可能性が示唆された。
 本研究によって、シモフリゴケの有性生殖は生育環境の変化により制限されており、その原因の一つとして、環境に対する繁殖応答の雌雄差が重要な制限要因となっていることが明らかになった。


日本生態学会