| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-N-399 (Poster presentation)
広域に分布する植物の種は、多様な環境に生育するため、生活史形質に集団間変異が認められる事例が知られている。植物の種子発芽特性にもさまざまな集団間変異が存在し、それぞれの生育環境に適応した結果と考えられている。 ヒメガマTypha angustifolia L.は、北半球に広く分布し、水辺の多様な環境に生育する多年生の抽水植物である。ヒメガマの種子発芽特性にも集団間変異が存在し、その集団間変異が生育環境への適応に関係している可能性があることは、第63回全国大会(仙台)で発表した。本研究では、ヒメガマの種子休眠の深さと種子発芽速度に着目し、その集団間変異と生育環境との関係について、さらに解析を進めることを目的として調査を行なった。
材料として、北海道から沖縄まで31集団の種子を採集した。種子は、休眠の深さを調べるため0、2、4、8週間の低温処理を施した。発芽条件は変温(25/15°C)・明条件とした。休眠の深さは、「発芽率が低温処理8週間後の最終発芽率の50%に達するまでの低温処理の期間」を指標とし、各低温処理期間の最終発芽率をもとに内挿法を用いて算出した。発芽速度は平均発芽時間(MTG: Mean time to germination)を指標とした。MTGは値が小さいほど発芽速度が速いことを示す。
調査の結果、休眠の深さには0~6週間、MTGには3~19日の変異があることが明らかになった。また、休眠の深さとMTGとの間には有意な正の相関が認められ、種子休眠が深い集団ほど種子発芽速度が遅くなる傾向にあった。
本発表では、ヒメガマの生活史における種子繁殖の役割も踏まえつつ、種子発芽特性の集団間変異の適応的意義について考察する。