| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-P-428  (Poster presentation)

冷温帯ブナ林のマスティングにともなう細根動態の長期変動

*仲畑了(京都大学農学研究科), 楢本正明(静岡大学農学研究科), 佐藤雅子(静岡大学農学研究科), 水永博己(静岡大学農学研究科)

ブナ樹木には、種子生産が空間的に同調しながら大きく年変動するマスティングの現象が顕著に表れる傾向がある。そのため、ブナ林生態系の純一次生産や炭素分配機構はそれに関連して大きく年変動する可能性がある。一方、樹木の細根は養分・水分の吸収のみならず、森林地下部への炭素供給源としても大きな役割を担っている。森林のより長期的な生態系生産動態を把握するうえで細根動態の経年観測は必要不可欠であるが、マスティングをともなう森林においては、その現象が炭素分配機構に及ぼす影響を評価する必要がある。本研究の目的は、数年間の細根観察データをもとに、ブナ林におけるマスティングと細根生産動態との相関関係を明らかにすることにある。新潟県の苗場山系に位置するブナ天然林を対象に、リタートラップ法とミニライゾトロン法を用いて地上部リター生産と地下部細根動態を測定した。2008年から2015年にかけてリタートラップを16個設置し各年の葉・種子生産量を推定した。2008年8月に4本のミニライゾトロンチューブを埋設し、2009年から2015年の積雪期を除いた期間に、約1か月間隔で土壌断面を撮影した。細根画像データを画像解析し、画像面積ベースの細根生産量を求めた。対象とするブナ林では、2009年から2015年まで隔年でマスティングが観測された。細根生産動態は各年で明瞭な季節変動を示したが、その変動パターンは年ごとに異なっていた。種子生産量と年間細根生産量との間に相関関係はなかった。しかし、各年の種子生産量とその当年春および前年秋の細根生産量の間に正の相関が示され、一方で、種子生産量と当年秋および翌年春の細根生産量との間には負の相関が示唆された。ブナ種子の形成は春から夏ごろに行われるため、この結果は、ブナ林ではマスティングで種子を多く形成する直前に細根生産が活発になるが、種子を多く形成した直後は細根生産が抑制されることを示唆していると考えられる。


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