| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-P-440 (Poster presentation)
データ同化とは統計的手法でモデルに観測データの情報を反映させることで最適なパラメータを得る手法であり、近年注目を集めている。しかし森林生態系モデルへの実装はいまだ試行錯誤の段階である。また森林生態系モデルのうち積算温度を用いた葉フェノロジーの予測方法も進歩が遅れている。展葉は、積算温度が一定量を上回ると開始するというモデルで予測されるが、展葉予測に用いる積算温度の基準温度(以下、「展葉基準温度」)に広域で用いることが可能な客観的な根拠のある値を設定することは難しいとされていた。そこで、積算温度による葉フェノロジー予測を組み込んだ森林生態系モデルにデータ同化の実装を試み、最適化されたパラメータから日本広域における葉フェノロジーと気温に関する知見を得る事を目的として本研究を行った。
モデルには、SSSEMという葉バイオマス量の初期値・気温・光合成有効放射量を入力することで、そこで成立する森林動態を再現するものを用いた。本研究ではSSSEMによるLAIの出力結果に展葉基準温度をパラメータとする係数を乗算することで展葉を再現した。また落葉に関しては落葉開始温度をパラメータとし、週平均気温がその値を下回ると開始されて二週間で完了するという挙動を組み込んだ。葉フェノロジーに関するこれらのパラメータの最適値をデータ同化によって探った。
結果、観測データの突発的な大幅な誤差には影響を受けずに予測ができ、各パラメータも一定の値に収束した。これより、森林生態系モデルにデータ同化を実装することで生物学的に妥当性の高い予測が可能になることが示された。また日本広域で見た場合、展葉基準温度と落葉開始温度のいずれも年平均気温と有意な相関があることが示された。これより、日本各地における展葉基準温度と落葉開始温度の最適値は年平均気温を用いる次式によって得られる可能性が示された。
展葉基準温度 = 年平均気温 × 0.525 - 1.45 ,
落葉開始温度 = 年平均気温 × 0.808 + 0.383