| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-A-003 (Poster presentation)
多くの昆虫は飛翔のエネルギーや自身の子の餌として花蜜を利用している。成虫が単独で花を探すことは、時間がかかる上に、蜜が得られない花への訪問など、多大なコストがかかってしまう。真社会性であるミツバチは、八の字ダンスによって、餌場までの距離や方向を巣仲間に伝達しており、また巣仲間同士で花から発せられる揮発性物質(花の匂い)の情報を教え合うことで、効率的な採餌を可能にしている。花の匂いの情報伝達は、ミツバチでは主に、成虫が蜜を口移しで他成虫に与える栄養交換の際に行われている。ミツバチと同様の社会性昆虫であるマルハナバチでは、採餌済みの個体が巣内でフェロモンを放出し、他個体の採餌行動を誘発させるが、その際に同時に花の匂いの学習も行われると考えられている。この様な個体間の匂い情報の伝達は、昆虫から哺乳類まで、非常に幅広い生物で知られているものの、これまで社会性のカリバチ類においては確認されていない。これは、カリバチ類の幼虫が肉食性であるため、成虫の採餌のメインである狩りに注目され、花での採蜜行動が無視されがちであることが理由として考えられる。しかしながら、アシナガバチやスズメバチ、クロスズメバチなどの社会性カリバチ類は飛翔のエネルギーとして花蜜を盛んに利用しており、訪花も頻繁に行う必要があるため、巣仲間間における匂いの情報伝達が行われている可能性は極めて高いと考えられる。
そこで、本研究では、ヨーロッパアシナガバチ(Polistes dominula)を対象に、巣仲間同士での匂いの伝達が行われるかどうかを、実験室下における行動実験により検証した。その結果、ヨーロッパアシナガバチでは、成虫間の栄養交換時に、花の匂いの情報が伝達され、空腹個体は採餌個体からもらった花蜜と同じ匂いの蜜を選択することが明らかになった。