| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-A-009  (Poster presentation)

東南アジアの森林に共存するリス類の音声による同種認識

*田村典子(森林総合研究所), Phadet Boonkhaw(DNWP, Thailand), Budsabong Kanchanasaka(DNWP, Thailand), 林文男(首都大学東京)

東南アジアの森林は樹上性リス類の多様性がもっとも高い地域である。なかでもCallosciurus属は近縁な種が互いに近接あるいは重複した範囲に生息している。生態的に近い複数の種が共存するうえで、音声信号の果たす役割を明らかにするために、タイとマレーシアに分布するCallosciurus属6種の配偶行動における音声信号を録音し、音響特性を解析した。主要周波数、音節数、音節間隔などの音響特性は4種においては明確な違いが認められたが、2種(C. erythraeus / C. finlaysonii)は音声信号が類似していた。この2種について、地域個体群の音響特性をさらに詳しく比較すると、タイに生息するC. finlaysoniiは地域に関わらず類似の配偶音声をもつばかりではなく、別種とされていたタイの2種C. erythraeusとC. finlaysoniiも同じ音響特性を示した。一方、台湾由来のC. erythraeusは、タイのC. erythraeusとは有意に異なる音響特性を示した。また、2種の交雑個体群であると考えられる静岡県浜松市に定着した外来リスでは、両種の中間的な音響特性を示した。しかし、プレイバック実験によると、音響特性が異なるタイのC. finlaysoniiと台湾由来のC. erythraeusの2種は互いの音声を区別していない可能性が示唆された。この2種は毛色によって別種とされてきたが、重複した分布域では交雑する可能性がある。実際、mt-DNA d-loop, cyt-bおよびRAG1を用いた遺伝的解析を行うと、従来の形態分類と異なり、2種はそれぞれ単系統ではないことが分かった。したがって、配偶行動における音声信号は種の識別に有効な形質であると考えられ、実際に多種が共存する自然環境下では生殖隔離の機能をもっている可能性が推測された。


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