| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-A-010 (Poster presentation)
野生生物の個体群管理においては、空間ユニットごとに異なる管理目標を設定するゾーニングが広く行われている。動物個体は空間ユニット間を行き来し、行動プロセスが餌資源や景観構造によって変化するため、ゾーニングが有効に機能するか評価することは容易ではない。その評価のためには、動物個体の行動プロセスを環境の異質性と関連付けて定量的に理解し、個体群全体の挙動を予測する必要がある。そこで、本研究では堅果の凶作年における人里への大量出没が社会問題となっているツキノワグマを対象に、標識再捕獲法により餌資源の年変動が行動プロセスに与える影響を推定した。2013年から2015年にかけて富山市東部の86箇所に自動撮影カメラを設置し、胸部斑紋等による個体識別を行い、外部形態から性別を判定した。富山県東部においては、2014年が堅果の凶作年であった。ホームレンジを持つ行動パターンを表現しうる二次元Ornstein-Uhlenbeck過程のパラメータを連続時間型空間標識再捕獲モデルにより推定した結果、凶作年において移動速度は遅かったが、ホームレンジ中心への引力が小さかったため、行動圏サイズが大きくなっていたことが明らかとなった。また、オスはメスに比べて中心への引力が小さく、また移動速度は大きかった。この結果は堅果の凶作年にツキノワグマが里地に出没しやすいという傾向と矛盾していない。本発表ではさらに、二次元Ornstein-Uhlenbeck過程の拡散項に空間的な不均一性を導入し、行動パターンおよびホームレンジの形状が景観構造により変化するよう拡張を試みた例を紹介する。