| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-A-014  (Poster presentation)

開鰾魚チャネルキャットフィッシュは流れに応じて浮力と遊泳方法を変化させる

*吉田誠(東大・大気海洋研), 山本大輔(豊田市矢作川研究所), 佐藤克文(東大・大気海洋研)

チャネルキャットフィッシュ(Ictalurus punctatus)は、気道とつながった鰾(うきぶくろ)をもつ開鰾魚で、鰾内の気体量を速やかに変化させて浮力を調節できることから、尾びれを振らずに潜降するグライド遊泳を含めた、効率よい遊泳方法を活用して移動コストを抑えている可能性がある。異なる流れ条件のもとで本種がどのような浮力状態を選択し、どの程度の頻度でグライド遊泳を活用しているか検証するため、霞ヶ浦、利根川および矢作川において、それぞれ6個体、2個体、3個体に行動記録計を装着し、9-100時間の行動記録(深度・3軸加速度・遊泳速度)を得た。浮上時および潜降時にみられたグライド遊泳の発生頻度を深度毎に集計し、一般化線形混合モデルを用いて、流れの有無、深度、遊泳方向および個体の体密度の指標となる肥満度の4つの要因がグライド遊泳の発生頻度に及ぼす影響を推定した。
 浮上時と潜降時の遊泳努力量を個体毎にそれぞれ比較した結果、湖の個体は自らの重さを支えるだけの浮力をもたず(=負の浮力)、体密度が水より高い状態にあった。一方、河川の個体は自重を支えるだけの浮力をもち(=中性浮力)、水とほぼ同等の体密度を達成していた。グライド遊泳の発生頻度は河川より湖で高く、浮上時より潜降時に高くなっていた。また、深度が深くなるほど、あるいは体密度が重くなるほどグライド遊泳をしやすくなると予測された。霞ヶ浦の個体は、湖底付近で底生動物を採餌するために負の浮力状態にあると考えられる一方、河川では上流から流下する生物が食性の中心と報告されており、水面から川底まで鉛直方向に広く探索する必要があるために、体を支えるのに余計な力を必要としない中性浮力の状態を選択していると考えられた。以上の結果は、本種が流れ環境に応じて浮力を調節し、生息水域の餌環境に適した遊泳方法を選択していることを示唆する。


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