| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-A-023  (Poster presentation)

世界最大の海鳥ワタリアホウドリはなぜジグザグに帰巣するのか?

*後藤佑介(東京大学), Henri Weimerskirch(Centre national de la recherche scientifique), 深谷肇一(統計数理研究所), 依田憲(統計数理研究所), 佐藤克文(名古屋大学)

海鳥類は一生のほとんどを海上で過ごすため、複雑に変化する多様な風環境に適応していると考えられる。南インド洋は常時強風が吹き荒れる特異な環境であり、海鳥類の移動戦略の可塑性や進化を知る上で適した環境である。しかし、既存の手法で鳥の意思決定に合った時空間スケールで風を実測することは困難であった。そこで我々は状態空間モデルを用いて鳥のGPS経路データのみから、経路上の風を推定する新手法を開発した。この手法を、南インド洋で繁殖するワタリアホウドリ(Diomedea exulans )の経路データに適用し、風の推定と、鳥の風に対する移動パターンを調べた。その結果、帰巣時に目的地のコロニーの方角へ風が吹いているにもかかわらず、ワタリアホウドリはまっすぐコロニーへ向かわずに、数10kmの幅でジグザグ移動しながら帰巣していた。多くの研究で鳥が追い風を利用して移動コストを減らす例が報告されているが、それらに反してワタリアホウドリは追い風を避けていたのである。鳥の多くは羽ばたいて飛行するが、アホウドリの仲間は海上風を利用してはばたかずに滑空飛行するダイナミックソアリングと呼ばれる飛行方法も利用する。特にワタリアホウドリはダイナミックソアリングが飛翔時間の大半を占めることが知られている。そこで、目的地の方角へ風が吹いており、かつ、鳥がダイナミックソアリングのみを使って移動するという条件の下で、鳥が最短時間で目的地に到達できる経路を、最適制御理論に基づいて求めた。その結果、追い風方向にまっすぐ移動する経路と、追い風を避けてジグザグに移動する経路の2つが解となった。このとき後者のほうが前者より同じ時間内で広範囲を移動できる。そのためジグザク帰巣は、帰巣しつつ餌遭遇率を上げられる点でより優れた移動戦略であり、一見遠回りをしているようで、ワタリアホウドリが南インド洋の強風環境に適応した結果の産物と言える。


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