| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-A-024 (Poster presentation)
性的共食いは雌に栄養的利益をもたらすが,雄の将来の交配機会を奪うため,強い性的対立をもたらす.性的対立によって生じるコストを回避するため,雄は対抗適応を遂げると期待される.チョウセンカマキリの雄は性的共食いを被った際に,交尾時間を延長し,射精量を増加させ,その結果父性獲得率が有意に高まるという報告がある.これは,性的共食いに適応した雄の交尾行動調節であると考えられる.一方,このような適応的な交尾行動調節の至近要因については未だわかっていない.
昆虫は,頭部神経節が交尾行動を抑制的に制御している.カマキリの性的共食いは,しばしば雄の頭部を損傷するため,頭部神経節による抑制からの解放が,共食いに伴う交尾時間の延長と射精量の増加という交尾行動調節を引き起こしている可能性がある.そこで本研究は,チョウセンカマキリの交尾行動調節に関わる神経生理学的要因を明らかにすることを目的として,交尾行動調節の至近要因として考えうる2つの仮説,「頭部の損傷を通じた頭部神経節による抑制的制御からの解放」と「共食いによる外傷刺激」を実験的に検証した.
未交尾のチョウセンカマキリのペアを交尾させ,以下の4つの処理のいずれかを施した:通常交尾,共食い交尾,交尾開始後雄頭部切断,交尾開始後雄片前脚切断.交尾時間を測定し,実験終了後に受精嚢内の精子数を数えた.その結果,交尾時間は頭部を損傷した処理(共食い交尾と頭部切断)において有意に増加したことから,交尾時間の延長に関わる至近要因として,「抑制からの解放仮説」が支持された.一方,受精嚢内の精子数は,処理間で有意差は見られず,どちらの仮説も支持することはできなかった.これらの結果は,交尾時間の延長と射精量の増加が異なる要因によって制御されている可能性か,精子数測定における大きな誤差が傾向を隠ぺいしている可能性を示唆する.