| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-B-032 (Poster presentation)
北極生態系の構造や機能の変化については、環境変化にともなう「予測」に主眼が置かれている。しかし、生態系機能やサービスを持続的に維持するためには、これらの駆動要因である、生物多様性の形成過程や維持機構について理解し、生態系機能が発揮される「プロセス」に基づく評価や管理手法の提言が求められる。北極圏陸域の生態系は近年の氷河後退に伴って段階的に成立してきた現在進行中の生態系の変化の最前線である。特に、低緯度北極圏における森林の拡大は、はっきりと観察することができる現象であり、近年の気候変動との関連性も指摘されている。これまでに、リモートセンシングを用いた広域評価や、ローカルスケールの研究によって森林化のパターンと森林性樹木種の分布拡大プロセスが明らかになりつつある。しかし、侵入される側のツンドラ性植物群集の応答については森林拡大プロセスに比べて知見が不足している。本研究では、カナダ・ラブラドル半島のハドソン湾側に位置するクジュアラピック(北緯55度)周辺において、樹木種の侵入に伴うツンドラ植物群集の変化について報告する。調査地は、森林とツンドラ植生帯の境界に位置し、矮小性の低木、草本によって構成されるツンドラ植生への森林性樹木種の侵入が見られる。調査地におけるツンドラ群集の構成要素である、矮小性低木、草本の種組成と種数は、土壌の環境要因の変化によって説明されることが明らかになった。また、森林性樹木の被覆率も、近隣の森林パッチからの距離ではなく、土壌の環境要因によって説明された。森林性樹木の被覆率が増加する環境傾度に沿って矮小性低木の種数は増加するものの、草本群集は種の入れ替わりを伴う種数の減少を示した。このような、森林性樹木の侵入に伴ってツンドラ群集が消失する過程の群集構造の変化は景観内の空間構造ではなく、土壌の環境要因と関連していると考えられる。