| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-B-036  (Poster presentation)

日本列島の落葉広葉樹林帯の植生変化をシミュレーションで再現する。-データ同化による試み-

*渡部俊太郎(京都大・フィールド研), 池田成貴(京都大院・農), 伊勢武史(京都大・フィールド研, JSTさきがけ)

樹木の展葉、落葉フェノロジーと気象の関係を理解することは、気候変化が森林植生や陸域生態系の一次生産に及ぼす影響を予測するうえで重要な意味を持つ。特に、個々の樹種が気温勾配に沿ってどのような葉フェノロジーを実現しているのかを理解することは、上記の予測の地域差を推察するうえで有用な情報となりうる。しかし、複数の樹種の葉フェノロジーを広域的に観察することは難しく、日本列島スケールでの葉フェノロジーと気象要因の関係やその種間差については定量的なことはほとんど分かっていない。本研究では、日本列島の落葉広葉樹林の葉フェノロジーを予測するシミュレーションモデルの結果と植生図のデータを重ね合わせることで、日本列島の落葉広葉樹の展葉、落葉フェノロジーと気温の関係について複数の樹種を比較し考察した。研究では光合成有効放射と気温のデータから葉面積指数(LAI)を予測するSSSEM(Dietze 2013)というモデルを用いた。モデルのパラメーターは観測値に対する尤度に基づいて最適化を行う「データ同化」という手法により調整し、衛星観測されるLAIの実測値を8日おきに同化し、逐次的に最適化を行った。その上で、4kmメッシュに変換した環境省植生図のデータから日本の代表的な落葉樹5種(ブナ、ミズナラ、コナラ、クヌギ、シデ類)が優占するメッシュを抽出し、シミュレーションから求められた展葉、落葉の開始温度とメッシュの平均気温の関係およびその種間差を共分散分析により調べた。解析の結果、ほとんどの樹種において展葉及び落葉の開始温度と平均気温の間に正の相関が見られたが、その程度は樹種毎に異なっており、共分散分析の結果も気温と樹種の間に交互作用が存在していることを示唆した。これらの結果は、日本の落葉広葉樹林には気温の変化に対して柔軟に葉フェノロジーを変化させる樹種と比較的一定に葉フェノロジーを維持する樹種が存在していることを示唆している。


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