| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-B-039 (Poster presentation)
熱帯から亜熱帯にかけての島嶼では,サンゴ礁起源の石灰岩が高頻度で地質基盤となり,その上に森林が成立している.石灰岩はアルカリ性を帯び,かつ多孔質で乾燥しやすい特徴があることから,その上に成立する森林植生に影響を及ぼすと考えられる.しかし,石灰岩地質が海洋島島の森林植生にどのような影響を及ぼすのかは不明な点が多い.そこで,本研究では世界の熱帯~亜熱帯域島嶼の森林データを用い,石灰岩が森林構造及ぼす影響を解析した.加えて,小笠原諸島母島石門に設置した4haの毎木調査区において,石灰岩が露出した区(ラピエ区)と露出していない区(土壌区)の間で森林構造の違いを比較した.一般に島の森林では樹木の種多様性が低く,かつ強風撹乱などの影響で幹密度が高い.しかし,世界の海洋島での解析からは石灰岩地で種数が多く,幹密度が低い傾向がみられた.これは石灰岩地では露岩が多く,土壌層も浅いため樹木の更新適地が限られており,空間が比較的空いていることが原因と考えられた.一方,森林の優占種に関しては石灰岩地特有の樹種は見られず,島ごとに優占種は大きく異なっていた.石門の森林調査区においても,ラピエ区では土壌区と比較して樹木の種数が多く,幹密度や胸高断面積合計が低かった.稚樹・実生の個体数も土壌区よりラピエ区が少なく,石灰岩地での更新が難しいことを示唆していた.外来種アカギは4haプロット全体ではラピエ区に多かったが,過去の植栽地がラピエ区に近いことが影響しているためと考えられた.一方,固有樹種や絶滅危惧樹種はラピエ区で多様性が高い傾向があった.これは露岩の制約でギャップの多い石灰岩地では多くの樹種に更新チャンスがあるためと考えられた.石灰岩地は小笠原固有絶滅危惧種にとって重要な生息地になっている可能性がある.