| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-B-051  (Poster presentation)

中央アルプス将棋の頭森林限界における下層林分構造

*小林元(信州大学農学部アルプス圏フィールド科学教育研究センター), 片野亜紀(信州大学農学部森林科学科)

高山帯は極地と並んで温暖化に脆弱な環境であると考えられている。本研究では,地球温暖化が森林限界の林分構造にどのように影響するか予測することを目的として,高木限界からハイマツ帯にかけて設営した固定試験地における樹高1.5m未満の下層林分構造について紹介する。
調査は,中央アルプス将棊の頭直下の信州大学農学部附属AFC西駒ステーション,標高2570mの北東向き斜面で行った。2010年に斜面方向に向かって長さ30m,幅10mのプロットを設定し,斜面方向に10mずつ3分割し,斜面上部から上,中,下プロットとした。上プロットの上端はハイマツ林の下限と接しており,下プロットの下端は亜高山帯常緑針葉樹林の上限と接している。2015年にプロット内の高さ0.1m以上,1.5m未満の全個体の樹高と地際直径の測定を行った。
ハイマツ帯と接する上プロットと中プロットは林縁効果によって林内が明るく,個体数と構成樹種が多かった。地上から0.6mまでの階層にはミヤマホツツジ,クロウスゴ等の低木広葉樹が優占しており,上層を優占するダケカンバ,ナナカマド等の高木広葉樹の更新と競合していた。高木広葉樹の中では萌芽更新が旺盛なウラジロナナカマドのみがL字型の樹高階分布を示し,順調な更新が期待できた。一方,森林限界と接する下プロットは上層を常緑針葉樹のオオシラビソが優占することから林床が暗く,個体数と構成樹種数が上・中プロットより少なかった。また,オオシラビソとコヨウラクツツジ以外の種には小さい階級の個体が少なく,耐陰性の強いこれらの2種を除いては更新が難しいと考えられた。今後,高山の温暖化が進むと下プロットでは常緑針葉樹林化が進むこと,上・中プロットではミヤマホツツジ,クロウスゴ等低木広葉樹の成長が温暖化によってどのように応答するかで,ダケカンバ,ナナカマド等高木広葉樹の更新が左右されると予想される。


日本生態学会